僕は幸せだ。
僕は恵まれている。
お父さんはお医者さんだから、僕のお家はとってもお金持ち。部屋には立派な机にふかふかのベッド、それから僕よりずっと背の高い本棚。上からの下まで隙間なく詰め込まれた本は、普通の小学生には少しばかり難しいみたい。
僕が学校から帰る頃、お母さんは決まって晩ご飯の用意をしてる。お母さんの料理はとってもおいしい。そこらのレストランなんかよりよっぽど出来た味だ。
お父さんはお仕事が忙しいから、いつも一緒にご飯は食べられない。ちょっとさみしいな。
キッチンに立つお母さんに、今日のテストを見せる。もちろん三桁満点だ。
するとお母さんは、満足そうな顔で言う。
「あなたはとっても優秀ね。きっと将来、大物の医者になるわ」
お母さんの喜ぶ顔が嬉しくて、僕は今日も勉強をする。
優秀な僕は、もちろん学校でも人気者。
毎朝教室に入ると、友だちが大きな声で挨拶をくれる。
やんちゃな彼は、ちょっと過剰なスキンシップで僕を出迎える。
おとなしいあの子は、僕と目が合うと慌てて背ける。あまりにも恵まれている、僕の存在が眩しいのかな? それとも、僕に気があるとか。
休み時間はみんなと遊ぶ。決まって宝探しだ。
隠した物を見付け出す、たったそれだけの単純なルールは、優秀な僕には少し物足りない。
そうは言っても、学校は広い。そう簡単には見つからない。
いつもは休み時間が終わる前には見つかるのに、今日は見つけられなかった。
僕の教科書はどこにいったのかなあ?
当然僕は、先生からも一目置かれている。
今日はテストの返却。当然、百点満点だ。自信満々の僕の顔を、先生はいつも浮かない顔で見てくる。
僕は頭能にも恵まれている。先生が嫉妬するくらいだもの。
給食の時間。でも、僕は食べない。
僕は心が広いから、その給食をみんなにわけてあげるんだ。
僕は、家から持ってきたお母さんが作ったお弁当を食べる。
でも、今日はカバンに入ってなかった。持ってくるのを忘れちゃったみたい。
やんちゃな彼が、僕をいやらしい目で見てくる。お腹すいたなあ。
帰り道、体力のある僕は、みんなの荷物を運んであげる。腕に抱えたランドセルは、計三つ。
みんなお礼を言わないのは、照れ屋なのかな。それともやっぱり、僕の才能が悔しいのかな。
返された答案を、またお母さんに見せる。お母さんはまた言う。目尻を下げて、口角を上げて。抑揚のない声で言う。
「あなたは将来、大物の医者になるわ。期待してるわよ」
僕は今日も机に向かう。
部屋に篭って勉強をする。今頃みんなは、公園でボールを追っかけてるんだろうなあ。
僕は恵まれている。家庭も、頭脳も、体力も、友達も。
嬉しいなぁ。涙が止まらないや。