ドライブ

 高速を出て一般道に入ったところで、右からトラックが突っ込んできた。
 避けようとして慌ててハンドルを切る。瞬間、車体が傾いたが、直ぐに持ち直す。どうやらトラックは車線変更をしたかったらしい。今は、彼の運転する車の前を、堂々と走っている。

 バックミラーを見やると、優子は未だすやすやと寝息を立てていた。起きなかったようだ。



 妻の美弥子は、娘を産んでから疲労の色が顕著に見られるようになった。
 生まれたばかりのころはもちろん、幼稚園に上がっても、子育ての忙しさは消えることはなかった。
 元々細かった身体は目に見えてやつれ、二の腕の肉はげっそりと落ち、骨と皮しかない程だ。顔も、頬骨は浮き出し、ほうれい線は目立ち、目の下にはいつも黒々と隈があった。若かりし頃の、俺が見蕩れた美しさなどとうに消え去っていた。
 それでも、愛していたのは変わらない。大丈夫か、疲れたら休め、などと日々励まし続けた。
 次第に美弥子は、ヒステリーを起こすようになった。食器や家具を投げつけられたり、荒唐無稽な誹謗を言われたりした。それでも俺は耐え続けた。

 息抜きになれば、と思い、優子を連れ出したのは今朝のこと。
 日曜日の遊園地はさすがに混んでいた。しかし優子は人ごみなど気にせず、子どもらしくはしゃぎ、俺を引っ張り歩き回った。


 すっかり疲れてしまったのか、今は大人しく寝息を立てている。楽しんでくれたのなら何よりだが。

 乱暴な運転をしやがって、とトラックを睨んだ。クラクションを鳴らそうと思ったが、寝ている優子の事を考えると気が引けた。
 しかし杞憂だった。うう、と唸る様な声がして、優子が目を覚ましてしまった。

「わりいな、起こしたか。……家まではまだ一時間くらいかかりそうだ。まだ寝てていいぞ」
「……ううん、大丈夫」

 それから優子と、今日の遊園地の話をしながら、しばらく車を走らせた。
 途中にコンビニがあったので、そこで一度下りて、明日の朝食や切らしそうな日用品などを買った。ついでに優子にジュースを買ってやった。

 再び車に乗り込もうとすると、優子が言った。
「私、ここでいいよ。後は歩いて帰れる」

 名残惜しいが仕方ない。俺は一人で車に乗り、サイドミラーに映る手を降る優子を見ながら、妻と娘が待つ家へハンドルを切った。