分岐

「もうすぐ夏休みだけど、今度またおばあちゃんに会いに行こうか」
「行きたい! ああっ、こぼしちゃった」
「そうね、おばあちゃんも会えるの楽しみにしてるでしょうし」

 家族四人で夕食の時間。父の言葉に、妹は喜びはしゃいで、カレーを掬ったスプーンをテーブルに落とした。
 それを拭きながら母も賛成したが、僕は正直行きたくない。
 毎年夏になると訪れるおばあちゃんの家。見渡す限り山しかないみたいな場所だ。そこでおばあちゃんは、犬と二人で暮らしている。
 当然そんなところに友達はいない。夏休みの宿題か、持って行ったゲームをするくらいしかやることがない。
 おばあちゃんは妹にかまってばかりで僕には興味がないみたいだし、はっきり言って行く意味がない。

「僕は行きたくない」
「……」一瞬、食卓が静まり返った。すぐに母が口を開いた。「駄目よ、来なさい。中学生の子供をおいて旅行はできないわ」
「いやだ。何が何でも行かない」
「おばあちゃんも会いたがってるよ」
「そんなわけないだろ。妹にしか話しかけないよあいつ」
「あいつって! そんな言い方ないでしょ!」

 母は感情的だ。怒らせれば、話の内容なんて忘れて相手を嫌いになる人だ。
 おかげで僕は行かなくて良いことになった。



「本当に行かないのか?」

 荷物を抱えた父の台詞に首を振って応える。
 ついに、僕を残して家族が出て行った。短いけれど、一人暮らしの始まりだ。
 僕の計画では、今から三日間、ゲームをやり続ける。それはさすがに飽きそうだと思い、二日目は友達も呼ぶことにした。
 僕は駆け足でコンビニに行き、ポテトチップスとチョコレート、コーラを買ってきた。どれだけお菓子を食べても怒られないなんて、なんという極楽。去年もこうしておけば良かった。
 テーブルの上に、ゲームディスクを並べる。一日一時間しかできないRPGを進めるのもいいけど、明日に備えて格闘ゲームの腕を上げるのも良い。
 数秒悩んだ末、RPGをやることにした。

 どれくらいの時間が経っただろう。お菓子とコーラがすべて収まったはずのおなかが鳴いている。カーテンの隙間から入る西日がまぶしい。
 ようやくラスボスの前までたどり着いた。が、やはり疲労が溜まってきた。セーブをして、いったん休もうとゲーム機の電源を切った。
 ニュースに切り替わったテレビの音声を聞きながら、何か無いかと冷蔵庫を探った。

「国内線の飛行機が突然空中で発火、その後山中に墜落したニュースで、この事故で乗客百十二名、乗員八名の計百二十名全員が死亡したことが判明。発火の原因は未だわからず……」